不法行為・共同不法行為の類型

不法行為の成立要件

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めます。

このように、民法上の不法行為成立には、①故意又は過失、②他人の権利または法律上保護される利益(以下権利等と言います)、③権利等を侵害したこと、④損害が生じたこと、⑤故意又は過失によって権利等侵害が生じ、権利等侵害によって損害が生じたこと(以下因果関係と言います。)が、必要と考えられます。

共同不法行為の成立要件

共同不法行為とは、民法719条に定められた不法行為の類型で、共同不法行為成立が認められれば、加害者の1名に対して、不真正連帯債務として全損害の賠償を請求していくことができます。

民法719条1項前段は、「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と定めます。
このように、共同不法行為については、上記の不法行為成立の要件に加えて、⑥数人の不法行為が「共同の」不法行為と評価できること(以下、関連共同性と言います。)が、要求されます。

教唆・幇助類型

民法719条2項は、「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する」と定めます。

競合行為による損害の場合

民法719条1項後段は、「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする」と定めます。これは、所謂択一的競合(複数の行為が奏効して、結果を発生させた場合)の因果関係について定めた規定と解されます。
すなわち、一方が結果を発生させた場合は、結果を発生させた行為と、結果との条件関係は肯定される反面、もう一方の行為は、因果関係の断絶により、条件関係を否定されることは自明です。
これに対して、双方が結果を発生させた場合、つまり、双方の行為の相乗効果として、結果が発生した場合には、どちらの行為を除いても、具体的な結果は生じなかったといえるから、双方の行為と結果との因果関係が肯定されることになります。
本条は、結果を発生させた行為が不明の場合、つまり、具体的結果を生じせしめた行為が、どちらか一方の行為であるのか、そうであるとすれば、どちらの行為か、あるいは双方の行為が結果を生じさせたのか、不明のケースについて定めていると解されます。この場合、双方の行為を取り除けば、当該結果が発生しなかったことは確かであり、原則どおり条件関係を認めないのは、不当です。そこで、条件公式を修正して、双方の行為を除いたとき、結果が生じなかったといえる場合は双方の行為と結果との間に、因果関係が肯定できるものとして、個別的因果関係を一応肯定していこうとするものと考えられます。
条件関係に限らず、各加害行為が与えた寄与度が判明しない場合も、本条の射程と解されています。

択一的競合における因果関係の補完を志向するという本規定の趣旨から、各行為に競合関係があれば、共同行為と評価できることまでは、要求されないものと考えられます。以上から、各自独立した競合行為により損害が発生し、その条件関係、寄与度が明らかにできない場合は、立証責任が転換され、自らの行為と損害に条件関係がないこと、寄与度が一定であることを加害行為者が立証しない限り損害全体について不真正連帯債務の責に任ぜられます。