交通事故とむちうち

むちうちとは

むちうち損傷,むちうち症,いわゆるむちうち(ムチ打ち)は,正式な傷病名ではありません。

いわば「むちうち」は俗称で,正式には頸椎捻挫・腰椎捻挫や,外傷性頸部症候群などと呼ばれることが多いようです。

むちうちと呼ばれる所以は,事故の衝撃により体が鞭のようにしなり,体が鞭のようにしなった衝撃で,脊椎の頸椎部ないしは腰椎部そのものあるいは周辺の筋肉などに損傷が生じるさまから来ていると言われています。

この「むちうち」は,交通事故において受傷する被害者が最も多い症状のひとつで,交通事故のご相談にもむちうちで苦しんでおられる多くの方が訪れます。

むちうちと症状固定日

交通事故における「むちうち」受傷でまず問題になるのが、症状の固定日です。

というのも、「むちうち」受傷の実態は頸椎・腰椎の捻挫にともなう頸椎・腰椎周辺の軟部組織の損傷や、頸椎・腰椎の歪みにより神経が圧迫される神経症状です。

つまり、神経症状という目に見えない症状(注1)が問題となるため、明確にこれ以上良くなる、これ以上良くならないという線引きが難しい場合があるのです。

そうすると、治療を早期に終わらせて損害額を低く抑えたい損害保険会社と、まだ痛みがあるため治療を続けたい交通事故被害者との間で、治療をいつまで続けるのか綱の引っ張り合いが始まることがあります。

もっとも、損害保険会社も社会的に重要な業務を行う地位ある企業として交通事故後早期に治療をやめろといってくることは多くありません。

一番多いのは、事故から半年程度で治療の継続が争われるケースです。

—————————

注1)神経根の圧迫がMRIなどの画像所見などによって確認できる場合もありますが、痛みはあるのに画像所見上は異常が認められないケースも多く存在します。

むちうちに対する損害保険会社の対応

むちうちについて、損害保険会社が治療を認めてくれる期間は、3カ月から6カ月程度の場合が多いようです。 むちうちに基づく神経症状は、目に見えない症状であるため、未だ改善の見込みがある状態なのか、少なくとも数年から10年程度は症状が改善しない後遺症の状態なのか、線引きが非常に難しいようです。そのため、むちうち由来の神経症状については、治療が長引くケースも多く、損害保険会社も3~6カ月程度を目途に治療費の支払いを打ち切りを示唆することが多いようです。

もっとも、むちうちといっても、頸椎・腰椎部等に外傷性の変性が画像所見として確認できる場合など、治療をいつまで続けるかはケースバイケースと考えられます。したがって、交通事故被害者としてはよく自らの症状を医師に伝え、最終的には医学の専門家である医師の判断を仰ぐことになります。

患者すなわち交通事故被害者の方で通院を打ち切ったり、治療を終了することは当然できますが、交通事故賠償においては、受けるべき治療を受けなかった場合も、受けるべきでない治療を受けた場合も、適切な治療を受けた場合に比べると不利になることがあります。

むちうちと後遺症

むちうちの場合、どういった後遺症が残るのでしょうか。

むちうちは、神経が集中している脊椎になんらかの異常を伴います。

ですので、後遺症が残るのは、首や腰の周囲に限られません。

手や足に、しびれ・異常感が残存したり、頭痛がのこったりする場合もあります。

こうしたむちうちに伴う後遺症は、神経症状として評価されます。

神経症状は,主に後遺障害等級認定表にいう12級と14級で評価される後遺症状です。

後遺症というと一生続くように聞こえてしまいますが、神経症状の場合、長くとも5年から10年程度で症状が消失してしまう場合がほとんどといわれています。

したがって、裁判所も神経症状の逸失利益については、長くとも5年から10年程度の期間の逸失利益しか認めてくれないことが多く、就労可能年数の主張は特別の事情がない限り認められません。

この点は、注意が必要なポイントのひとつと考えられます。

むちうちと手足のしびれ

むちうちは、頸椎(正確ではないかもしれませんが簡単にいうと首の骨)や腰椎(腰の骨)の怪我であるにもかかわらず、手足がしびれるといった後遺症が残ってしまうこともあります。
これは、頸椎や腰椎は、脳からのびる神経のターミナルの役割も担っていて、頸椎や腰椎から手足に神経が伸びていることから、頸椎や腰椎が傷つくことによって、手や足に伸びている神経の生え際、根っこの部分などが圧迫されるなどして、手や足にしびれが生じてしまいそのまま後遺症として残ってしまう場合があるからです。

こうした手や足のしびれは、しびれがさほど大きくない限り通常の職業には大きな影響は与えないかもしれません。しかし、精密な手の動きを必要とする職業など、大きな影響を受ける職業も存在します。 裁判所も、職業の種別、職務内容によって特に大きな影響があると判断した場合は、逸失利益を通常よりも高く算定する場合があります。こうした特殊な主張は、専門家への相談が推奨される一場面と考えられます。