詐欺罪・恐喝罪

詐欺罪

①「欺」く行為(欺罔行為)

詐欺罪の実行行為は、人を錯誤に陥れる行為である。この、欺罔行為足りうるかは、客観的に判断される。
注1)したがって、相手方が特にだまされやすい場合や、とくにだましにくい場合も考慮せず、客観的に欺罔行為足りうるかを決する。

②損害

詐欺罪は財産犯であり、損害の発生が認められない限り、既遂とならない。この損害概念については、個別的財産の減少をさすものとも構成できるし、全体財産の減少をさすものとも構成できる。詐欺罪においては、個別財産の減少を損害と捉えるべきである。
注1)したがって、本来交付される金銭を早めに交付させることも損害に含まれ得るが、判例(最判平成13年7月19日)は、本来の支払いと別個の給付と評価できる期間、支払いを早めた場合にのみ、詐欺罪の成立を認めるとしている。

③国家的法益に対する詐欺

国家の給付サービスを、不正に受給する行為も、個別財産の減少を伴い、損害と評価できる。したがって、給付対象物が「財物」に該当する限り、詐欺罪の成立を認めるべきである。営農意思がないのにあると偽って土地を買い受ける行為は、土地が「財産上不法の利益」として詐欺罪の客体になるから、詐欺罪の成立を肯首しうる。しかし、パスポートや免許は、国の行政行為を証する紙片にすぎず、「財物」性を肯定できない。よって詐欺罪は成立しない。
注1)客体が詐欺罪の対象となる場合でも、不正受給は国家の行政作用を侵害するにすぎず、詐欺罪を構成しないと主張する見解もある。

④処分意思の要否

詐欺罪は、相手方の瑕疵ある意思に基づいて財物を奪取する犯罪類型であるから、相手方の「交付」(246条1項、246条2項「前項の方法により」)行為が必要である。この交付行為は、客観的に財物の占有、利益の移転を生じさせる行為とともに、処分者の処分意思を要する(これを欠けば、窃盗罪となる。)。
注1)2項詐欺罪の場合、明確な処分意思の表示まで要求する必要はない。支払いを猶予することの認容や、もし自分が欺罔されていれば支払いを受けられないであろう状況を認識していれば、処分意思として十分と解される。
注2)これに対して、処分意思を必ずしも要求しない立場もある。たとえば、無意識の処分行為を認める見解である。

詐欺罪類型論

A:キセル乗車

キセル乗車(正規の運賃を払わない意図で乗車し、正規の運賃を払わないで下車する行為)について詐欺罪が成立するだろうか。
まず、乗車時についてみると、正規の運賃を払わない意図を秘して乗車券を提示する行為は挙動による「欺」く行為にあたる。しかし、処分行為者が不明である。すなわち、入場係員は、入場という利益を交付したにすぎない。そうすると、実質的な処分行為者は運送という利益を交付した乗務員となる。しかし、被欺罔者と処分者が異なってしまう(もっとも、乗務員は入場係員の判断にしたがって客を運送せざるを得ないから、錯誤と処分行為に因果関係を肯定する余地はある)。
そこで、下車時をみると、出場係員に、処分意思があるかが、問題となる。しかし、出場係員は、乗車券が仮に不正であれば、正規の債権を請求する機会を失う状況を認識しているといえるから、処分意思を肯定することができる。
注1)上記のように、乗車時と下車時に詐欺の成立を認めれば、両罪はひとつの法益に向けられたものとして、先の詐欺罪に後の詐欺罪が吸収される。

B:クレジットカード詐欺

支払能力がないことを秘してカードを提示し、あるいはサインに応じる行為は、挙動による詐欺を構成する。もっとも、クレジットカード詐欺には加盟店、信販会社が関係人として存在し、商品に対する1項詐欺とも、代金債務を免れる2項詐欺とも構成しうるから、クレジットカード詐欺を如何に法的に構成するかが問題となる。
この点判例は、商品を被害品、加盟店を被害者とする一項詐欺とする。しかし、加盟店は信販会社から代金を受けられるから、この構成は形式的にすぎるとも言われる。
そこで、信販会社をして、立替払いをさせ、加盟店の自己に対する債権を免れた点に財産上の利益の移転を見出す、2項詐欺罪構成が登場する。
また、信販会社には処分行為が認められないとして、加盟店を処分行為者、信販会社を被害者とする2項詐欺罪構成の亜流も出現する。
さらに、交付される財物は商品である、1項詐欺と構成しながら、損害を、加盟店の商品交付により、確実に発生する信販会社の財産上の損害と構成する見解もある。

C:誤振込

誤って口座に振り込まれた金銭の実際の占有は銀行にある。したがって、誤振込をの事実を秘して、係員をして金銭を引き出す行為は、挙動による詐欺罪を構成する。なお、自動支払機からの引き出しは、銀行の意思に反した占有移転として、窃盗罪を構成する。

D:訴訟詐欺

被欺罔者は裁判所だが、処分者は被告であり、両者が異なってしまうから、欺く行為と処分との因果関係が認められず、詐欺罪の成立が否定されるとも思われる。しかし、処分者が、被欺罔者に従わざるを得ない場合には、因果関係を肯定しうる。したがって、両者が異なっても、詐欺罪は成立すると解する。

恐喝罪


①恐喝行為

「人を恐喝」する行為とは、人を畏怖させるに足る行為であり、反抗を抑圧するに至らない暴行も含まれる。畏怖するに足るか否かは、客観的に判定される。不法行為を通報する旨の言辞も、客観的に相手方を畏怖させるに足る行為であり、「恐喝」行為に該当する。

②恐喝罪と権利行使

構成要件該当性

債権者が、人を畏怖するに足る行為をもって、弁済を得た場合、恐喝罪が成立するだろうか。恐喝罪における損害も、個別財産の交付と解する。そして、実質的個別財産説によっても、債権がなくなることと、債権額の貨幣を有していることは価値が違うから、損害の発生を肯定しうる。したがって、権利行使に際しても、恐喝罪の構成要件該当は否定し得ない。

違法性阻却事由

そして、判例(最判昭和30年10月14日)は、権利行使も、ⅰ実際の権利の範囲内で、ⅱ社会通念上正当な態様で行使した場合に限り、違法性を阻却できるとする。恐喝罪の構成要件に該当する以上、ⅱ行使態様の社会的正当性は肯定しえず、恐喝罪の成立は否定できないと考えられる。