公訴:訴状の記載

①幅のある訴因の特定

訴因を明示するには、できる限り罪となるべき事実を特定してしなければならない(256条3項)。そこで、訴因について幅のある記載が違法ではないかが問題となる。ここで、訴因は、審判の対象たる、検察官構成の犯罪事実であって、裁判所に審理の対象を提示する機能(訴因の識別機能)と、被告人の防御範囲を明確にする機能(訴因の告知機能)を有する。したがって、訴因の特定は、訴因と他の犯罪事実が識別でき、被告人の防御の範囲を限定できれば足りる。とすれば、犯罪を構成する事実でなく、訴因を特定する手段に過ぎない日時、場所、方法の記載に幅があったとしても、上記訴因の機能を害しない限りにおいて、適法である。具体的には、ⅰ.被告人の防御権への支障の有無、程度ⅱ.犯罪の種類、性質、ⅲ.日時、場所等を特定できない特段の事情等を考慮して、特定の違法性を判断すべきである。
注1)白山丸事件においては、起訴状および冒頭陳述(すなわち訴因)から審判対象は識別され得るし、被告人の防御の範囲も限定されているといえるから、適法とされた(最大判昭和37年11月28日)。また、覚せい剤使用事犯においても日時、場所、方法において幅のある記載が適法とされた(最決昭和56年4月25日)。さらに、暴行の方法、傷害の内容、死因等が概括的な傷害致死訴因の訴状記載が適法とされた判例もある(最決平成14年7月18日)。
注2)共謀自体は罪となるべき事実として、訴状、判決書に記載されることが必要である。しかし、共謀の日時、場所は、審判対象たる犯罪事実を特定する手段にすぎない。したがって、訴因を他の犯罪事実と識別し得れば、共謀の日時、場所の記載までは必要でない。
注3)また、共同正犯における実行行為者においても、同様である。
注4)もっとも、特定の手段に過ぎない事実でも、それが訴因を構成するに至れば、訴因変更なく異なる事実を認定することは、原則として許されない(最決平成13年4月11日)。

②起訴状一本主義

起訴状には、裁判官に予断を生じせしめるものを添付し、またはその内容を引用してはならない(256条6項)。裁判官が公判に至る前段階で事件について有罪の心証を抱くことを防止し、公平な裁判を保障する趣旨である。
注1)余事記載をした場合、いったん生じた予断は排除できないから、公訴は無効となり、338条4号により、判決で控訴棄却される。もっとも、予断の程度が公訴を無効とまでしない場合(予断を生じない余事記載がされたに過ぎない場合など)は、余事記載を修正、削除すれば足りると解される。

②-①文書の引用

文書の引用が、訴因の特定に不可欠である場合、予断排除の原則と、訴因特定の要請が衝突する。しかし、要約であればその内容が不明瞭であるなど、文書の引用が訴因の特定に不可欠であれば、文書引用は、256条3項に言う、訴因の明示として適法であって、有効な起訴状の内容を構成するから、余事記載に当たらないものと考える。
注1)反対に、予断排除の原則が優先するとする見解もある。訴因の特定は、釈明等で補正可能だが、いったん予断により生じた公正な裁判に対する瑕疵は回復不可能だからである。

②-②前科、余罪の記載

前科、余罪の記載は被告人の悪性格を印象付け、予断を生じせしめる。したがって、原則として、起訴状への記載は許されない。しかし、ⅰ.前科、余罪が構成要件要素になっている場合(常習性など)、ⅱ.犯罪行為の内容となっている場合(前科を明示して脅迫を行った場合など)には、犯罪の特定に欠くことができない。その場合、前科、余罪の記載は適法な訴状の内容を構成するから、例外的に余事記載に当たらない。

②-③被告人の経歴、性格など

被告人の経歴、性格などの記載も、予断を生じせしめる程度、犯罪の特定に必要とされる程度を考慮して訴状の記載として必要な場合は、許容される。

[su_posts posts_per_page=”10000″ taxonomy=”post_tag” tax_term=”260″ order=”desc” orderby=”modified”]