交通事故を人身事故として届け出るべきか

交通事故は過失に基づいて起こされるものであり,したがって,交通事故の被害が物的損害にとどまる限り,刑法上の犯罪には該当しないものと解されます。なぜなら,物的損害については故意に基づく器物損壊罪等の規程はありますが,原則的に過失犯を処罰する規定はおかれていないものと解されるからです。

これに対して,人的損害が生じてしまった場合,つまり,死者や負傷者が出た場合は,過失に基づく結果の発生であっても,自動車運転過失致傷罪等の規定によって処罰されることになります。

したがって,過失に基づく事故の場合でも,人的損害が発生している事案については,原則的に警察等の捜査機関も実況見分などの捜査を行う必要性が発生してくることになります。

このように,届け出をすることで警察が捜査を行う状況が原則的に発生する人的損害が発生している事故を,このサイトでは人身事故として把握していきます。

交通事故に基づく人的損害が発生した場合,人身事故として届け出るか否かが,被害者の判断にゆだねられる場合があります。重大な人身事故であれば当然捜査が開始される場合もあるものと思料されますが,比較的軽佻と判断される怪我の場合,人身事故の届け出がなければ,警察も捜査を開始しない場合があります。

捜査が開始されないと,実況見分調書などの書類が作成されないため,のちの示談交渉や,民事訴訟において、過失割合に争いがある場合など,事故態様を証する書面がないことになり,示談交渉や民事訴訟に支障を来す場合があり得ることになります。

そこで,特段の事情のない限り,交通事故被害に遭われた方は,人身事故として届け出をして,自らに有利な事故態様であることなどを公的な書面に残存するように行動した方が,後々有利になる場合もあり得ると言えます。