国家賠償法上の違法性と過失

違法性

国家賠償法上の違法をいかに捉えるかについては、争いがあります。公務員に、法ないし条理に基づく行為規範を観念し、行為規範に反した点を違法と評価する行為不法説と、国家作用の結果個人に損害が発生している状態それ自体が法に反するとする、結果不法説があります。判例(最判平成5年3月11日、最判平成11年1月21日)は、行為不法説を前提に、国家賠償法上の違法とは、公務員個人が国民に対して負っている職務上の注意義務(行為不法説に言う、行為規範)違反と捉えています。すなわち、公務員は国民個人に対して、職務上の注意義務という形で行為規範を負っており、これに反した場合、国家賠償法上の「違法」の概念に該当すると評価されることになるのです。すなわち、抗告訴訟に言う違法と、国家賠償法にいう違法が、異なる意味合いに捉えられることになります(違法性2元論)。

過失

過失概念を、行為者の主観を指し示した概念であるとの伝統的理解から離れ、社会通念上観念される注意義務に反した行為を指し示した概念と捉えるのが潮流です。このように過失概念を捉える場合、違法を職務上の注意義務違反と捉えることと同義となり、両要件が重複することになります。

公務員といえど、国民に損害を与えないように注意しないといけない義務が課されているんですね。

裁判官

裁判官の裁判についても、公権力の行使にあたり、国家賠償法の適用が肯定されると解されています。もっとも、裁判に法令の適用違背があり、上訴、再審の対象となる場合でも、そのような法令違反がただちに違法を意味するものでなく、職務上の注意義務違反が問題になります。そして判例(最判昭和57年3月12日)は、裁判官が司法権の趣旨に明らかに背いてこれを行使したといえる特段の事情がある場合に限って、職務上の注意義務違反に基づく違法があるものと判示しています。

裁判官が独立性を保って事案に対する判断を示せなくなると、弊害が大きいんだ。

検察官

検察官の捜査、訴追については、無罪判決が確定したというだけで直ちに違法との評価を下せず、ⅰ.逮捕・勾留は、相当の理由ないし必要性がないのにあえてこれをした場合、ⅱ.起訴・公訴追行は、証拠資料を勘案して、有罪の嫌疑がないのに、あえてこれをした場合など、特段の事情がある場合に限って、職務上の注意義務違反が肯定されると考えられます。

イラストの事例のような検察官がほとんどで、検察官の捜査、訴追が違法とされるようなケースは、現実的にはほとんど考えられないようなケースなんだ。

※イラストは下記参照記事より抜粋

https://ns2law.jp/2019/10/16/%e8%a2%ab%e5%ae%b3%e8%80%85%e5%8f%82%e5%8a%a0%e5%88%b6%e5%ba%a6%e3%81%ae%e8%a7%a3%e8%aa%ac%e3%83%9a%e3%83%bc%e3%82%b8%e2%91%a1-%e6%a4%9c%e5%af%9f%e5%ae%98%e3%81%ae%e6%a8%a9%e9%99%90%e8%a1%8c%e4%bd%bf/

司法警察員

司法警察員の捜査、逮捕勾留についても、犯罪の嫌疑など、処分を行う根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにも拘らず、留置などの処分を行った場合など、特段の事情が認められる場合に初めて、国賠法上違法の評価を受けると解しています。

何にもしてない人を、何かしたと勘違いして留置した場合ではなく、何にもしてない人を何にもしてないと知りながら留置したようなケースが想定されるっス。

国会議員

国会議員の立法行為についても、立法が憲法に反することが直ちに国家賠償法上違法の評価を受けるものでなく、立法内容が憲法の一義的文言に反しているにも拘らずあえて立法を行うといった容易に想定しがたい例外的な場合でない限り、違法の評価を受けないとする判例があります(最判昭和60年11月21日)。さらに、例外的な場合の具体例として、判例(最大判平成17年9月14日)は、Ⅰ立法内容ないし、立法不作為が憲法上国民に与えられた権利を積極的に侵害することが明白な場合、Ⅱ憲法上国民に与えられた権利を国民が享受するために立法措置がⅰ.必要不可欠であり、ⅱ.それが明白であるにもかかわらず、ⅲ.国会が長期間これを怠り、消極的に権利が侵害されている場合、国会議員に個々の国民に対して負う、職務上の注意義務違反があるとして、国賠法上違法の評価が導かれるとしています。

立法権は広範な裁量があり、立法行為が違法となるというのは、大変な事態なんですね。

不作為

権限の行使には、権限の不行使も含まれます。したがって、国家の公権力の不行使が、国賠法上違法と評価できれば、損害賠償請求を肯定できます。そして、判例(最判平成元年11月24日・最判平成7年6月23日)は、権限の不行使が、権限を与えた法の趣旨、目的に照らし、著しく不合理である場合に、公務員の職務上の注意義務違反を認めます。すなわち、権限行使に広い裁量を認め、裁量に反する場合にのみ、職務上の注意義務違反も認められるとします。なお、不作為によりされなかった処分が、自己でなく第三者に向けられた行政処分であった場合、不作為の違法を主張して国家賠償請求を行った原告に、侵害されるべき法律上の利益があったのかが、問題とされる場合があります。すなわち、処分に関する第三者の抗告訴訟における原告適格の議論が、反射的に投影することになります。

申請に対する不作為

行政庁が申請に対して応対する手続き上の義務に反して応対しなかったことだけでは足りず、ⅰ対応に十分な時間からさらに長期間が経過し、ⅱ当該事態が通常の努力により回避できたといえる場合には、不応答による精神的損害を避けるべき職務上の義務に違反したといえ、国家賠償法上、違法と評価されることになります(最判平成3年4月26日)。

公務員が何もしてくれないとき、その損害を賠償してもらえるケースがあります。
でも、条件はものすごく厳しいんだ。

https://ns2law.jp/2018/07/28/%e5%9b%bd%e5%ae%b6%e8%b3%a0%e5%84%9f%e6%b3%95%ef%bc%91%e6%9d%a1%e3%81%ae%e6%b3%95%e7%9a%84%e8%ab%96%e7%82%b9/