刑事訴訟法:論点:捜査7.被疑者の防御権

被疑者の防御権

・黙秘権
①黙秘権:「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」(憲法38条1項)。犯罪を犯した者も、自己が有罪となる供述を、国家に強制されない。なぜなら、そのような供述の強要は、被疑者、被告人の人格権を蹂躙するからである。訴訟法上は、被告人の黙秘権(311条1項)しか明示されていないが、被疑者に黙秘権が及んでいることが前提となっている(198条2項参照)。
注1)ポリグラフ検査が被疑者の黙秘権を侵害しないかが問題となる。ただ、証拠となるのは供述内容でなく、生理的反応であり、黙秘権を侵害しないと思われる。
注2)呼気検査においても、黙秘権を侵害しないかが争われた。ただ、証拠となるのは供述内容でなく、呼気に含まれるアルコール成分であり、到底黙秘権を侵害するとはいえない。判例もこれを否定している。

・接見交通権
①接見交通権:被告人又は被疑者は、弁護人(又は弁護人となろうとする者)と接見し、書類・物の授受ができる(39条1項)。憲法34条前段は弁護人依頼権を保障し、被疑者、被告人が弁護人から援助を受ける権利を保障している。接見交通権は、弁護人の援助を受ける機会を保障する趣旨であり、憲法34条前段に由来する(最判平成11年3月24日-36事件)。

②接見指定の要件:もっとも、憲法は刑罰権及び刑罰権行使のための捜査権を前提とし、接見交通権が捜査権に絶対的に優先するとはいえない。捜査権行使と接見交通権が抵触する場合の調整を定めたのが、39条3項である。そして、被疑者、被告人の防御権の保障を定めた39条3項ただし書に照らすと、原則として接見指定は許されない。したがって、「捜査のために必要があるとき」とは、例外的に現に取調べ中であるとか、間近いときに取調べを行う予定が確実であるとかの、捜査を行うに顕著な支障が生じる場合に限る(最判平成11年3月24日-36事件)。

③初回接見:以上のように捜査に顕著な支障が生じるとして接見指定が行える場合であっても、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない(39条3項ただし書)。殊に、初回接見は弁護人選任のための接見であり、取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、弁護人の援助を受ける権利の出発点をなすものである。したがって、接見指定の要件を満たしたとしても、時間さえ指定すれば即時または近接した時点での接見が可能である場合、特段の事情のない限り、接見させなければ被疑者の防御権を不当に侵害する(最判平成12年6月13日―37事件参照)。

④余罪捜査と接見指定:被疑事件Aについて起訴された場合、余罪である被疑事件Bについて逮捕、勾留がなされていない限り、接見指定は行えない。起訴後の事件に対する身体拘束は接見指定の根拠足りえない(39条3項本文)からである(最判昭和41年7月26日)。しかし、B事件について身体拘束が伴う場合は、B事件の「捜査のために必要がある」限り、接見指定を行える(最決昭和55年4月28日-39事件)。もっともこの場合、被告事件に関する防御権の不当な制限にわたらない限りで、接見指定が許されると解される(39条3項ただし書類推適用)。
注1)以上が接見指定の論点であるが、これとは別に、任意取調べ中の被疑者と弁護人との面会を妨害した場合、国家賠償法上の「違法」性が認められた判例がある(福岡高判平成5年11月16日-38事件)。ただ、これは身体拘束中の被疑者に認められる接見交通権の事案ではなく、あくまで身体拘束されていない被疑者の行動の自由に対する制限が違法とされた事案である。