不作為に基づく共同正犯の限定:不作為も行為であり、共謀が認められる限り「共同して…実行した」(刑法60条)と評しうるから、共同正犯の成立を観念できる。しかし、作為義務を有さないものも不作為犯を「共同して…実行した」と評せるか。この点共同正犯が正犯として処罰される所以は、他の共同者と相互利用補充関係を構築し、自ら犯罪を遂行する意図のもと、法益侵害に因果を及ぼした点にある。そうであれば、作為義務を持たないものも、作為義務を持つものと相互利用補充しあうことにより、犯罪結果に因果を及ぼした場合、「共同して…実行した」ものとして正犯と評価しうるものと解する。
予備罪の共同正犯:予備とは実行行為に着手する前段階の行為をさす。この予備行為に共同正犯を肯定できるか。刑法60条は「実行した」と規定する。しかし、実行行為をしめす43条の実行と異なり、60条の実行は共同正犯を基礎付ける概念であり、予備行為も含んでいるものと解する。したがって、予備行為にも共同正犯を肯定できる。
他人予備の肯否:他者の犯罪を予備する場合にも予備罪が成立するだろうか(正犯が実行行為に出れば幇助犯として処罰されるが、正犯が予備にとどまった場合に、予備行為を助けた他人に予備罪の単独犯が成立するか問題となる)。この点、たとえば、刑法201条殺人予備罪は、「百九十九条の罪を犯す目的で」として、自己の犯罪として実行行為を行う意図のない者を処罰の対象としていない。よって、他人予備は成立しない。
犯罪実現目的を有さない者にも予備罪の共同正犯が成立するか:そこで、共同正犯の成否が問題となる。この点予備行為も、60条の「実行し」の観念に含まれる。そして、犯罪実行目的を真性身分と解し、65条1項により共同正犯の成立を認めるべきである。なぜなら、目的を有さないものも、目的を有するものを解して予備行為として処罰に値する程度に法益侵害の危険性を生じせしめ得るからである。
正当防衛と共同正犯:共同正犯者の一人に正当防衛の要件(刑法36条1項)が認められる場合、他の共同正犯者もその行為を正当化されるのだろうか。違法性の実質を社会的相当性を逸脱した(行為無価値)法益侵害(結果無価値)と捉え、行為の性質は各人別に定まるから、共同正犯においては違法の連帯性を否定すべきである。したがって、一人に正当防衛が成立しても、他方の行為は正当化されないものと考える。
過剰防衛と共同正犯:共同正犯者の一人に過剰防衛の要件(刑法36条2項)が認められる場合、他の共同正犯者も刑を減軽、免除されうるだろうか。思うに、過剰防衛の減軽免除の根拠は、急迫不正の侵害を前に、行為者が正常な判断能力を欠いたとしても、無理からぬから、責任が減少する点にあると解する。そして、責任は各自別個に判断されるから、共同正犯者の一人に過剰防衛が成立しても、その効果は他方に及ばない。※判例(最判平成4年6月5日:フィリピンパブ事件)も、過剰防衛の成否を各人に就きそれぞれ検討すべきとしている。
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