交通事故の相手方に対する訴訟提起をする場合,まず,訴訟を提起する裁判所を選択しなければなりません。
どの裁判所に訴訟を提起すべきか,民事訴訟法等が,裁判所の管轄の問題として,細かく規定しています。
例えば,訴額(相手方に対して,支払いを請求していく金額)が140万円以上であれば,地方裁判所の管轄とされますし,140万円を超えない価格であれば,簡易裁判所の管轄とされます(裁判所法24条,33条)。これを事物管轄と言います。
次に,地方裁判所であればどこの地方裁判所に訴訟を提起していくのか,決定しなければなりません。たとえば,東京地方裁判所に訴訟を提起するのか,千葉地方裁判所に訴訟を提起するのか,地理的な意味合いで裁判所を決めなければなりません。
これを土地管轄と言います。
なお,一つの地方裁判所である東京地方裁判所にも,たとえば本庁と立川支部があるなど,対応部署が分かれている場合があります。これは、土地管轄の問題ではなく、一つの地方裁判所の中の事務分掌の問題と捉えられています。
交通事故における損害賠償請求訴訟の場合,土地管轄は,被害者の住所地(被害者が原告の場合民事訴訟法5条1号,被害者が被告の場合民事訴訟法4条1項),加害者の住所地(加害者が被告の場合民事訴訟法4条1項),交通事故が起きた場所(民事訴訟法5条9号)などに認められます。また,自賠法上の運行供用者責任を追及していく場合は,運行供用者の住所地に対して訴訟を提起することもできます。
相手方に任意保険会社が介在している場合
このとき,交通事故案件においては,上記のとおり訴訟時の事件の土地管轄は,被害者の住所地(被害者が原告の場合民事訴訟法5条1号,被害者が被告の場合民事訴訟法4条1項),加害者の住所地(加害者が被告の場合民事訴訟法4条1項),交通事故が起きた場所(民事訴訟法5条9号)などに認められます。
加えて,交通事故事件について,相手方に任意保険会社が介在している場合,任意保険会社と事故の相手方等が交わした保険契約の内容を規律する約款などを根拠にして任意保険会社に直接保険金を請求できる場合がほとんどです。
このとき、約款などにおいて直接請求の条件が「事故相手方に対する損害賠償請求訴訟の判決が確定したこと」などと規定されているため,事故相手方に対する損害賠償請求訴訟は同時に提起する必要があります。
しかしながら、事故相手方に対する損害賠償請求訴訟等と,任意保険会社に対する保険金の直接請求訴訟は,主観的共同訴訟の要件(民事訴訟法38条前段)を満たすと解されるため,民事訴訟法7条によって,任意保険会社の本店所在地に土地管轄が認められる場合が殆どです(注1)。
注1 管轄を有利にするためだけに本来訴える意志のない請求を併合提起することは,権利の濫用にあたると判示した判例も存在します。しかしながら,現在の交通事故示談の実情に照らすと,任意保険会社に対する直接請求が実態であり,便宜上交通事故相手方を訴えているに過ぎないとの指摘も可能であり,当事者の意思と債務名義などを合致させるために,任意保険会社を併せて訴訟の相手方とすることは,当事者の実際の意思と法的効果を近づけるに過ぎず,到底濫用に当たらないとの考えも成り立ちえます。また,事案によっては民事訴訟法17条に基づいて移送される可能性などは,否定できませんが,事故相手方に対しても,保険会社が弁護士を付けている現状では,相手方の事情を勘案して民事訴訟法17条を適用すべきケースはほとんど想定できないのではないでしょうか。
以上の論拠によって,交通事故案件に関しましては,任意保険会社の本店所在地にも理論上は管轄が認められることになります。
交通事故案件の取扱い対応地域について
弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)における案件受任対応地域は,原則的に東京高等裁判所管内とさせていただいております。
殆どの任意保険会社の本店が東京高裁管内の裁判所が土地管轄を有する場所に存在することから、任意保険会社が介在している限り,理論上東京高裁管内の裁判所に管轄が認められ得ます。
そこで,弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)においては,交通事故案件においては,任意保険会社が介在する場合,事案の対応をご相談頂くことができますので、お気軽にお問い合わせください。