強盗罪

1項強盗罪

①暴行脅迫

①-①暴行脅迫の意義

236条1項の「暴行又は脅迫」は相手方の反抗を抑圧するに足る程度の暴行・脅迫を指す概念である。相手方の反抗を抑圧するに足るか否かは、被害者の主観ではなく、客観的な行為の性質から判断される。
注1)したがって、被害者が特に臆病な場合も、頑強な場合も、客観的に行為の性質から判断される。
注2)なお、相手方が現に反抗抑圧されたかは、必ずしも強盗罪の成立要件とはならない。反抗を抑圧するに足る暴行・脅迫がなされ、類型的因果性の範囲内で、財物の占有が移転すれば、強盗罪に問責しうる。因果性が否定される場合は強盗罪にはできない。

①-②暴行脅迫の手段性

「暴行…脅迫を用いて…財物を強取した者は、強盗」(236条1項)とされる。反抗を抑圧するに足る暴行・脅迫と財物奪取に因果関係が認められれば、強盗の客観的構成要件に該当する。しかし「罪を犯す意思のない行為は、罰しない」(38条1項)から、「暴行…脅迫を用い」る意図がない行為は、強盗罪に問責できない。したがって、暴行・脅迫後に財物奪取意思を生じた場合は、客観的には強盗罪の構成要件に該当しても、故意を欠くから、暴行、脅迫と窃盗の牽連犯となるにすぎない。
注1)もっとも、相手方の反抗抑圧状態が生じてから財物奪取を企図した場合でも、その場に居座ることが新たな脅迫行為と認定できる場合がある。その場合、居座りにより生じる反抗抑圧をも利用して財物の占有を自己に移すことを認識、認容していれば、故意に欠けることはないと思われる。

②殺人による強盗

相手を殺害し、反抗抑圧した場合も、殺害行為を「用い」る、意思が有れば強盗罪に問責できる。これに対して、殺害後財物奪取の意図を生じた場合は、「用い」る意図に欠けるから、強盗罪に嫌疑できない。また、死者に占有は観念できないから、占有離脱物横領に過ぎないとも思われる。しかし、①犯人自ら殺害により占有を離脱させて、②殺人による占有離脱と同時と言えるタイミングで財物を奪う行為は、なお、生前の死者の占有を奪う行為といえ、「窃取した」と評価できる。

2項強盗罪

①処分行為の要否

強盗罪と詐欺罪、脅迫罪は、相手方の意思に反するか、相手方の瑕疵ある意思に基づくかで区別される。したがって、詐欺利得罪、脅迫利得罪には相手方の処分行為が必要と解されるが、強盗利得罪において「利益を得」(236条2項)と評するのに、処分行為は不要と解する。
注1)しかし、「財産上不法の利益を得」(236条2項)と評価するには、明確な基準が望まれる。したがって、債権の行使を当分不可能ならしめ、支払いの猶予を得たという得る場合に、初めて「財産上不法の利益を得」に該当すると解する。

事後強盗罪

①窃盗の機会

事後強盗罪は、「窃盗」が、窃盗継続時に財物の占有支配を維持するために「暴行…脅迫」を行ったのでなければ、強盗とは同視できない。したがって、書かれざる構成要件要素として、窃盗の機会継続中に暴行、脅迫が行われたことを要する。窃盗の継続中か否かは、窃盗と暴行、脅迫行為の時間的、場所的間隔および、追及の継続によって定まる。

②暴行の程度

窃盗が逃走中に発見されれば通常暴行、脅迫を働くことから、事後強盗の暴行脅迫について、犯行を抑圧するに足る暴行、脅迫の程度を厳しくすべきとの考え方もありうる。しかし、強盗傷人の法定刑が引き下げられ、また、強盗と事後強盗の暴行、脅迫の程度を質的に違えるまでの合理性もないから、暴行脅迫の程度は通常の基準によるべきである。

③事後強盗罪と共同正犯

「窃盗」犯とともに、暴行、脅迫の段に共謀を形成し、共同して(あるいは単独で)暴行、脅迫を行った者の罪責を如何にすべきだろうか。この点、「窃盗」は構成身分(加減身分と解すれば、基本犯が暴行、脅迫罪となってしまう。)と解される。そして、共同正犯も身分者の身分を媒介に法益侵害を行えるから、65条1項「加攻」には、共同正犯も含まれると解される。したがって、65条1項の適用により、共犯者にも事後強盗罪が成立する。
注1)窃盗を事後強盗の実行行為と解し、承継的共同正犯の問題とする見解もある。この場合、承継的共同正犯は先行行為を積極的に自己の犯罪として利用した場合に限り成立する。しかし、窃盗を実行行為と解せば、未遂の成立時期が早くなりすぎ、妥当でない。

④居直り強盗と事後強盗

居直り強盗は「窃盗」が発見され、新たに財物を奪取する意図で、強盗を働く場合である。事後強盗は、「窃盗」が財物の取り戻し、逮捕を逃れる意図で暴行、脅迫を行う場合である。両者は故意の内容で分けられる。居直り強盗が財物奪取に失敗した場合は、窃盗既遂と、強盗未遂の併合罪になり、財物奪取に成功すれば、窃盗は吸収され、強盗罪一罪が成立する。

強盗致死罪、強盗致傷罪

①強盗

「強盗」というだけで、人を死傷すれば常に強盗致死傷とされるのは妥当でない。したがって、一定の限定が必要であるが、これを、強盗の実行行為たる暴行、脅迫に限定するのは狭きに失する。したがって、強盗の機会継続中に生じた死亡、障害にであれば帰責できると解する。
注1)もっとも、強盗の機会継続中になされた行為でも、原則として財物奪取・確保や、逮捕追跡を逃れるための行為に限定される。

②強盗致死と強盗殺人

240条後段の構成要件に、強盗が殺人の故意をもって人を死亡させた場合を含むか、争いがある。文言上、故意ある場合を含まないようにも読めるからである。しかし、強盗が殺意を持って被害者を殺害し反抗抑圧状態を形成することは類型的に多く、この場合を構成要件から除いたとは考えにくい。したがって、240条後段は殺人の故意ある場合を含む。
注1)このように故意を240条後段の構成要件に含めると、240条後段にも「実行…着手」(43条1項)を観念でき、未遂と既遂が生じることになる。この場合、240条後段が人の生命を保護法益としていることから、人の生死が生じたか否かによって、「犯罪を遂げなかった」か否かを決するべきである。
注2)他に、故意ある場合を殺人(199条)と強盗致死(240条前段)のとする説(死の2重評価との批判あり)や、強盗(236条)と殺人(199条)とする説(法定刑が軽すぎるとの批判あり)がある。

③強盗致傷

③-①強盗致傷における傷害

204条の傷害は、人の生理的機能を障害する場合をさすが、240条後段の法定刑に鑑み、240条後段における傷害は、人の生理的機能に、顕著な障害が生じている場合を指すものと解する。

③-②強盗致傷と強盗傷人

強盗犯が、傷害結果を認容していることも多く、240条前段の構成要件に、傷害の故意ある場合も含むと解すべきである。この場合、強盗傷人において未遂を観念しうるが、傷害の未遂は暴行であり、強盗罪の構成要件に評価されているから、強盗傷人罪の未遂を論じる必要はない。

強盗強姦罪

①強盗強姦罪

強盗強姦罪(241条前段)は、「強盗」が強姦罪を犯した場合を重く処罰する、不真正身分犯である。「強盗」が強姦の実行行為に着手すれば、強盗強姦未遂罪が成立し、姦通すれば既遂罪として問責される。

強盗強姦致死

①強盗強姦致死と殺人の故意ある場合

強盗強姦犯が殺人の故意を有している場合は類型的に少なく、本条の構成要件に故意ある場合は含まれていないと解される。したがって、強盗強姦犯が殺人を犯した場合の処断が問題となる。強盗強姦罪と殺人罪の観念的競合とする説もあるが、法定刑の点で均衡を欠く。反面、強盗強姦致死と殺人罪の観念的競合とするのは、死の2重評価となり妥当でない。そこで、強盗殺人罪と、強盗強姦罪の観念的競合とすべきである。

②強盗強姦と傷害

強盗強姦犯が傷害を負わせた場合241条後段に対応する規定がない。したがって処断が問題となる。この点、強姦致傷罪の法定刑は3年以上の有期懲役であるのに対し、強盗強姦罪の法定刑は無期又は7年以上の有期懲役であり、強盗致傷の場合でさえ、無期又は6年以上の有期懲役であって、強盗強姦犯が相手方を傷害させた場合は、強盗強姦罪の罪責にすでに含まれていると解される。したがって、強盗強姦罪で処断すれば足りる。