子供用椅子<TRIPP TRAPP>事件の争点
最高裁判所が公表した傍聴人向けの「不正競争行為差止等請求事件について」によると「最高裁における争点は、本件椅子が著作物に該当するか否か」であることが明らかになりました。
不正競争防止法上の争点に焦点を当てたエントリについて
下記の記事を書いたところ、その後、最高裁判所から、最高裁判所で問題となっている争点が上記のとおり、公表されました。つまり、上記のとおり争点としては、実用品、すなわち応用美術の著作物性が問題となっているとのことが明らかにされました。
ただ、この論点、おそらく事案の結論はかなり明らかで、おそらく結論としては著作物該当性否定ではないかと思われます。割と、この結論は明白なので、それでは面白くない、不正競争防止法の論点に踏み込まなければ意味がないだろうと言う個人的な思いのもと、先日の記事を書きました。個人的に著作物性否定は自明くらいに考えているので、不正競争防止法の論点に踏み込まなければ、つまらないなあくらいの感覚で書いたエントリでした。しかし、今回最高裁判所としては、応用美術の著作物性に関してなんらかの線を引くに留めるようです。
そこで、この論点について所感を書いておきたいと思います。応用美術と著作物の論点は、著作権法の中でも非常に議論の活発な分野の一つと認識しています。著作権法の分野は(も?)、考え方が百花繚乱の論点がいくつもあるのですが、応用美術と著作物性の論点はその中でも議論が活発な論点の一つという印象です。地裁や高裁レベルでも拠り所としている基準が別れているなど、明確な指標が得にくい分野でした。
ここに最高裁判所が一つの見解を出すとすると、一つの区切りとなるのではないでしょうか。
応用美術の著作物性に関する知財高裁の判示
原審である令和6年9月25日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイトは、この論点について、下記のとおり判示し理論を整理した上で判断基準を導いています(ただし、区切り線とマーカーは筆者によります。)。
著作権法は、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」を目的とし(同法1条)、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と定めるとともに、同法にいう「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」(同条2項)と定める。
なお、昭和44年5月16日の第61回国会衆議院文教委員会における政府委員の答弁によれば、同項の「美術工芸品」とは、一品制作の美術的工芸品を指すものと解される(甲269)。
また、著作権法では、著作者の権利として著作権に含まれる権利(同法17条1項、21条から28条まで)や、著作者人格権(同法17条1項、18条から20条まで)、著作権の制限規定(同法30条から50条まで)等が定められ、存続期間は、原則として著作者の死後70年を経過するまで(同法51条)とされている。
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他方、意匠法は「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与すること」を目的とし(同法1条)、意匠とは「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」(同法2条1項)と定める。
また、意匠権は、設定登録により発生し(同法20条以下)、意匠権者の権利として、「業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する」(同法23条。なお、実施とは、意匠に係る物品の製造、譲渡等をする行為をいう。同法2条2項)などと定めるが、人格権の規定はなく、存続期間は、原則として意匠登録出願の日から25年をもって終了する(同法21条1項)。
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いわゆる応用美術の著作物及び意匠に係る法令の適用範囲や保護の条件は、ベルヌ条約(昭和50年条約第4号)上、同盟国の法令の定めるところによるとされており(同条約2条(7))、原告製品のような実用品の形状等に係る創作を我が国内においてどのように保護すべきかは、我が国の著作権法と意匠法のそれぞれの目的、性質、各権利内容等に照らし、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図るという見地から検討する必要がある。
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しかるところ、原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立することとなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。
立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。
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他方、著作権法2条1項1号によれば、「著作物」ということができるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は専ら実用に供することであって、鑑賞ではない。
実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は著作権法により保護しなくても意匠法によって保護することが可能であり、かつ通常はそれで足りるはずである。
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これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。
著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は、実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。
最高裁判所の判示の意義
上記のマーカで記した規範部分について、維持あるいは変更をするとしても、最高裁判所が基準を示す可能性が高く、実務上重要な規範になると思われます。
特に実用品のデザインが著作物に該当するか否かは、実務上影響が大きく、実務上は非常に参照される裁判例になりそうです。
すでに弁論は終了し、4月24日が判決期日と指定されているため、同日の判示が着目されます。



弁護士法人EIC



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