原発事故に起因するふるさと喪失慰謝料の損害算定例「平成29年 9月22日千葉地裁判決 (平25(ワ)515号・平25(ワ)1476号・平25(ワ)1477号損害賠償請求事件)」

「平成29年 9月22日千葉地裁判決 (平25(ワ)515号・平25(ワ)1476号・平25(ワ)1477号 事件名 損害賠償請求事件)」判決書は300ページを超える大部です。東京電力に対する一般不法行為に基づく損害賠償と国に対する国家賠償請求は棄却され、東京電力に対する原賠法3条1項の責任は肯定されました。

今回は当該判決からふるさと喪失慰謝料の賠償の可否と、賠償を認める場合の損害額の算定例をピックアップしました。同判例は、一つの判例の中で様々な事案について判断していることから、参考になります。

なお、弁護士齋藤理央 iC法務(iC Law)では法律相談実施の上で受任が適正と判断した事案については東京地方裁判所を一審とした原発事故損害賠償請求訴訟を代理して受任することができます。お気軽にお問い合わせください。

比較的多額の損害額を算定したケース

イ ふるさと喪失慰謝料(原告番号2ら) 原告番号2-1らは,長年にわたり飯舘村で生活し,地域社会との密接なつながりを形成 してきたところ,本件事故により自宅を含む地域が居住制限区域となったことにより,飯舘 村の自宅での暮らしや近隣住民とのつながり等生活基盤の全てを相当期間にわたって喪失し たことによる精神的苦痛を被ったと認められる。また,承継前原告番号2-3は,避難生活中に,長年連れ沿った夫を失い,飯舘村に帰還することができないまま死亡したのであって ,その無念さは計りしれない。さらに,原告番号2-1らは,避難生活中に両親を失うこと になってしまったほか,飯舘村に帰還することを断念せざるを得なくなった。飯舘村は,現 時点において避難指示が平成29年3月31日をもって解除されることが決定されているも のの,解除後すぐに本件事故前と同等の暮らしが戻るわけではなく,原告番号2らの精神的 苦痛が直ちに回復されるわけではない。 その他本件に現れた一切の事情を考慮して,原告番号2らの上記精神的苦痛に対する慰謝 料の額を,次のとおり認める。 原告番号2-1 350万円 原告番号2-2 350万円 承継前原告番号2-3 350万円

ク ふるさと喪失慰謝料(原告番号1ら) 富岡町は,居住制限区域,避難指示解除準備区域又は帰還困難区域となり,本件事故から6年近く経過した現時点でも避難指示が解除されていない。原告番号1らは,約20年間富 岡町で生活し,地域社会との密接なつながりを形成してきたところ,本件事故により自宅を 含む地域が避難指示解除準備区域となったことにより,富岡町の自宅での暮らしや近隣住民 とのつながり等生活基盤の全てを相当期間にわたって喪失したことによる精神的苦痛を被っ たと認められる。確かに,居住制限区域及び避難指示準備区域は口頭弁論終結後に解除され る予定であるものの,解除後すぐに本件事故前と同等の暮らしが戻るわけではなく,原告番 号1らの上記精神的苦痛が直ちに回復されるわけではない。 その他本件に現れた一切の事情を考慮して,原告番号1らの上記精神的苦痛に対する慰謝 料の額を各自300万円と認める。

カ ふるさと喪失慰謝料(原告番号3ら) 原告番号3らは,本件事故により浪江町の土地を含む地域が帰還困難区域となったことで ,約20年かけて手入れしてきた土地,家屋,山野草園等を全て喪失したと認められる。原 告番号3らが実際に浪江町に居住していたのは約6年間ではあるが,長い時間をかけてよう やく実現させた浪江町での生活は原告番号3らの生きがいとなっていたといえ,そのような 生きがいを失ったことにより大きな精神的苦痛を受けたと認めることができる。その他本件 に現れた一切の事情を考慮して,原告番号3らの上記精神的苦痛に対する慰謝料は,各自7 00万円と認める。

浪江町は,その全域が帰還困難区域,居住制限区域又は避難指示解除準備区域となり,本 件事故から6年近く経過した現時点でも避難指示が解除されていない。原告番号4らは,長 年浪江町で生活し,仕事あるいは学校,スポーツ少年団の活動等を通じて地域社会と密接な つながりを形成してきたところ,本件事故により浪江町の自宅での暮らしや近隣住民とのつ ながり等生活基盤の全てを相当期間にわたって喪失し,そのことにより精神的苦痛を被った と認められる。そして,原告番号4らは,浪江町へ帰還することを断念せざるを得ない状況 に追い込まれており,その無念さは察するに余りある。その他本件に現れた一切の事情を考 慮して,原告番号4らの上記精神的苦痛に対する慰謝料の額を,各自300万円と認める。

ソ ふるさと喪失慰謝料 被告東電の既払額は,700万円である。 原告番号17の自宅は,帰還困難区域に含まれ,今なお自由に立ち入ることができず,放 射線量も依然として高い状況が続いている。本件事故により長期間帰還することが困難にな ったことにより,原告番号17は浪江町の自宅での暮らしや長年かけて耕作してきた農地, 近隣住民とのつながり等生活基盤の全てを喪失し,精神的苦痛を被ったと認められる。原告 番号17の家系は,先祖代々○○の土地で歴史を築いてきたことからすれば,原告番号17 が感じたであろう喪失感は極めて大きいものといえる。その他本件に現れた一切の事情を考 慮して,原告番号17の上記精神的苦痛に対する慰謝料は850万円を相当と認める。

ふるさと喪失慰謝料 被告東電は,700万円を損害として認める。 承継前原告番号9-1の自宅は,帰還困難区域に含まれ,今なお自由に立ち入ることがで きず,放射線量も高い状況が続いている。双葉町の住民はそのほとんどが町内から避難して いる。承継前原告番号9-1は,長年双葉町の自宅で暮らしてきたところ,帰還困難区域に 指定されたことにより,長期間にわたり双葉町に帰還することができなくなり,双葉町での 暮らしや近隣住民とのつながり等生活基盤を全て喪失したということができる。そして,承 継前原告番号9-1は,双葉町の自宅に帰還することができないまま死亡しており,その無 念さは計りしれない。その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,承継前原告番号9-1 の上記精神的苦痛に対する慰謝料を,1000万円と認める。

エ ふるさと喪失慰謝料(原告番号10ら) 南相馬市(以下略)は,避難指示解除準備区域となり,本件事故から5年4か月年近く経 過した平成28年7月12日に避難指示が解除された。原告番号10らは,約16年間南相 馬市(以下略)で生活し,地域社会との密接なつながりを形成してきたところ,本件事故に より自宅アパートを含む地域が避難指示解除準備区域となったことにより,南相馬市(以下 略)の自宅での暮らしや近隣住民とのつながり等生活基盤の全てを相当期間にわたって喪失 したことによる精神的苦痛を被ったと認められる。確かに,避難指示準備区域は解除された ものの,解除後すぐに本件事故前と同等の暮らしが戻るわけではなく,原告番号10らの上 記精神的苦痛が直ちに回復されるわけではない。その他本件に現れた一切の事情を考慮して ,原告番号10らの上記精神的苦痛に対する慰謝料の額を各自300万円と認める。

エ ふるさと喪失慰謝料(原告番号12ら) 原告番号12らは,長年にわたり南相馬市(以下略)で生活し,地域社会との密接なつな がりを形成してきたところ,本件事故により自宅を含む地域が避難指示解除準備区域となっ たことにより,○○○の自宅での暮らしや近隣住民とのつながり等生活基盤の全てを相当期 間にわたって喪失したことによる精神的苦痛を被ったと認められる。南相馬市の避難指示は 平成28年7月12日に解除されたものの,解除後すぐに本件事故前と同等の暮らしが戻る わけではなく,原告番号12らの精神的苦痛が直ちに回復されるわけではない。 その他本件に現れた一切の事情を考慮して,原告番号12らの上記精神的苦痛に対する慰 謝料を,各自300万円と認める。

賠償を否定したケース

ふるさと喪失と原発事故の因果関係が否定されたケース

ク ふるさと喪失慰謝料(原告番号13ら) 南相馬市は政府による避難指示の対象区域となっていないこと,原告番号13らが自宅へ 帰ることができなかったのは主として本件地震による自宅の損壊・取壊しに原因があること など,本件に現れた一切の事情を考慮すると,上記キの慰謝料を超えて本件事故と相当因果 関係のある損害を認めることはできない。

法的保護に値する利益が侵害されているとまで評価できないとされたケース

キ ふるさと喪失慰謝料(原告番号8ら) 本件事故後の矢吹町の状況,放射線量及び避難者数等に加え,平成26年3月20日に原 告番号8らが矢吹町の自宅に帰還していることなどからすれば,前記カの避難生活に伴う慰 謝料を超える精神的損害が生じたと認めることはできない。放射線の影響を気にしながら生 活しているという事実が認められるとしても,直ちに原告番号8らの法的保護に値する利益 が侵害されていると評価することはできず,上記判断は左右されない。

キ ふるさと喪失慰謝料(原告番号11ら) いわき市は,避難指示の対象とはなっておらず,空間放射線量も避難指示区域と比べ低い 。その他,本件事故後のいわき市の避難者数の状況等に照らすと,前記カの避難生活に伴う 慰謝料を超える精神的損害が生じたと認めることはできない。原告番号11らが主張する事 情を考慮しても,原告番号11らの法的保護に値する利益が侵害されているということはで きない。

賠償の可否の分水嶺にあったと評価できるケース

オ ふるさと喪失慰謝料(原告番号14ら) 広野町は,平成23年4月22日緊急時避難準備区域に指定されたことにより,住民全員 が避難を余儀なくされ,同年9月30日に避難指示が解除されたものの,平成27年5月3 1日時点においても全住民の半数以上が帰還していない状況にある。そうすると,避難指示 が解除されたとしても,原告番号14らが相当長期間にわたって広野町に帰還することがで きないと感じたとしてもやむを得ないところがあり,そのことによる精神的苦痛は本件事故 と相当因果関係があるというべきである。そこで,本件に現れた一切の事情を考慮して,上 記精神的苦痛に対する慰謝料は,各自50万円を相当と認める。